夫は毎晩、眠っている私の口元に、スマホを置く。
先週、寝たふりをして、初めて気づいた。枕元で、画面が光っていた。
翌朝、聞いた。
「毎晩、何を録ってるの」
「なんでもない」
夫は笑って、話をそらした。三日聞いても、同じだった。
三年前、私は眠っている間に息が止まって、救急車で運ばれたらしい。覚えていない。今は治療を終えて、元気だ。
夫が風呂に入っている間に、私はこっそり夫のスマホを開いた。
録音アプリに、千個を超えるファイルが並んでいた。
名前は、日付と、毎回同じ一言。
「ちゃんと息してた」
一番古い日付は、三年前、私が退院した夜だった。
再生すると、私の小さな寝息が聞こえた。
そのあとに、夫の声が小さく混ざっていた。
「よかった」
夫は、私の寝息を録っていたんじゃない。
毎晩、私が息をしているのを、確かめていた。
