資料館の目玉『失われた環』の顎は、犬の骨だった。
閉館後、拡大鏡を置いた新人が言った。
「先輩、歯が削ってあります。茶色く染めてもある」
「うん、知ってる」
「えっ。知ってて展示してるんですか」
「平気じゃないよ。毎年、染め直してる」
「誰が作ったんです?」
「ピルトダウンの事件、知ってる?」
「四十年、誰も疑わなかった化石ですよね」
「うちは三年目。まだ誰も疑ってない」
「三年って……作ったの、先輩ですか」
「館長。私は染める係」
先輩は、ケースの鍵を彼の手に落とした。
「来月から、君の係」
「僕、ですか」
「顎はね、毎年少しずつ人間に近づけないと、バレるの」
