隣で外す

ぼる

文字サイズ

合唱コンクールの前日、千夏《ちなつ》が言った。「本番、口パクにしていい?」
放課後の音楽室に、二人きり。
「千夏の音程のせいで金賞が危ないって、誰かが言ってた」
「誰かって誰」
「聞こえただけ」
「……そうだよね」
千夏は笑った。笑い方だけ、うまかった。
「いいよ」と私は言った。千夏の肩が下がる。
「その代わり、本番は私の隣に立って」

翌日。舞台のライトは、思ったより白かった。
隣で千夏が口を開ける。音はない。
サビで、千夏の口が止まる。
私は、わざと半音、外した。
千夏が噴き出した。そして、歌った。私と同じ、ずれた音で。
結果は銀賞だった。
「ごめん」と千夏が泣いた。
「来年も、隣で外すから」
私はそう答えた。
来年の前日も、千夏はきっと言う。「本番、口パクにしていい?」
私の答えは、もう決まっている。

この話はいかがでしたか?

評価するにはログイン

まだコメントはありません。

この話を聴く

隣で外す

ぼる

冒頭を試聴中
00:00 / 01:00
ナレーションモモf0
再生速度
再生位置をハイライトON
効果音ON
効果音の音量

ログインすると全編を無料で聴けます(β期間中)

ログインして聴く →