一等の封筒が消えた。懇親会の十分前、準備室には私たち五人しかいない。
空っぽの箱を前に、私は言った。
「入れたのよ。赤い封筒。入れた……つもり」
「つもりって」と、ことねが青くなる。「麻衣《まい》さん、ちゃんと封をしましたよね」
「ガムテープでね」
「温泉のペア券でしょ」と大輝《だいき》が穏やかに言った。「今月末までの」
「待って。中身、言ったっけ」
「先週のメールに書いてあったよ。たぶん」
たぶん? 私は書いた覚えがない。覚えがないだけかもしれない。
かのんが明るく手を挙げた。
「正直、欲しかった! 彼氏の誕生日が今月で。でも盗らないよ? あ、箱、さっき持ったとき軽かったんだよね」
「開ける前に?」
「うん、なんとなく」
健太《けんた》が背筋を伸ばす。
「僕、ずっと受付にいました」
ことねが受付表を見て、小さく言った。
「健太さんの字、十七時四十分から五十五分まで空いてます」
「トイレです! 恥ずかしくて言わなかっただけで」
健太は口をつぐみ、それから呟いた。
「来月、異動なんです。母に温泉でもって……いや、何でもないです」
ことねが箱の蓋を指でなぞる。
「最初に箱を数えたのは私です。でも貼り直してなんかいません」
そう言うけれど、テープは一度剥がされ、角までぴったり揃えて貼り直してあった。几帳面な人の仕事だ。
「新人はみんな、角を揃える癖があるよ」と大輝が笑う。
「全員のカバンを見ましょう。私から」
ことねは自分のカバンを開け、すぐ閉じた。見えたのは、畳んだハンカチだけ。
開始まで、あと三分。誰かが言った。
「見つからなくていいんじゃない?」
大輝が頷き、かのんが笑い、健太がほっと息をつき、ことねが目を伏せた。
五人全員が、同じ顔をした。私も、たぶん。
さあ、あなたも数えてみて。五人の中から、ひとり。
