うちの犬は、私が泣いた日だけ、ごはんを残す。
柴犬の豆太《まめた》は食いしん坊で、皿はいつもぴかぴかになる。
先月、仕事で怒られて泣いた夜だけ、豆太は皿の半分を残した。
獣医さんに聞いてみた。「具合でも悪いんですか」
獣医さんは笑った。「健康そのものですよ」
それから、私が泣いて夕飯を抜いた日だけ、豆太は残すようになった。
今夜も私は何も食べず、ソファで丸くなっていた。
かちゃ、かちゃ。
皿が床をすべる音がした。
豆太が、半分残した皿を、鼻でぐいぐいと私の足元まで押してくる。
「……なに、それ」
豆太は一度だけ尻尾を振って、私を見上げた。
この子は、ごはんを残していたんじゃない。
ごはんを食べない私に、分けてくれていたのだ。
