位置情報オフ

ぼる

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位置情報をオフにした三分後、インターホンが鳴った。母は、三百キロ先の実家にいるはずだった。
二十五歳にもなって、帰宅時間まで母に筒抜けなのが嫌だった。家族の位置共有アプリは、私の就職の春に、母が勝手に入れたものだ。
母の点は、いつも実家の屋根の上にある。母は携帯を肌身離さない人だ。台所にも、お風呂にも、トイレにも持っていく。だから点が動かないのは、母が家にいる証拠だった。
その夜、私は初めて共有をオフにした。
〈凛《りん》さんが位置情報の共有を停止しました〉
三分後に、インターホンが鳴った。
モニターに、玄関前に立つ母が映っていた。
「凛《りん》、開けて。急に切るから、心配で新幹線に乗ったの」
間に合うはずがない。三百キロだ。
震える指でアプリを開く。母の点は、実家の屋根の上から少しも動いていない。
私は母に電話をかけた。
「なあに、こんな時間に」
受話器の向こうは、眠そうな母の声だった。
その瞬間、モニターの母が口を開いた。
「凛《りん》、開けて」
受話器の母とモニターの母が、同じ声で、同じ言葉を、同時に言った。

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