命を奪うガスには、色も匂いもない。
スキー場の駐車場で宿が取れず、誠《まこと》と妻の千尋《ちひろ》は、雪の夜を車で過ごしていた。
「ヒーター、あったかいね」
「朝までつけとくか」
「ねえ、トリビア。一酸化炭素って、吸うと頭が痛くなって、眠くなるんだって」
「へえ。それより腹減ったな」
「ビール、あんなに飲んだのに」
「窓が真っ白だ。雪、まだ降ってるな」
「朝には止むよ。明日は上のコース行く?」
「行くか」
「やった。……ごめん、ちょっと頭痛い」
「俺もだ。滑りすぎたな」
「うん。なんか気持ち悪い」
「飲みすぎたか」
「ふふ。ねえ、急にすごく眠い」
「俺も。寝よう。ヒーター、つけたままで」
「うん。おやすみ」
「おやすみ。……あったかいな」
エンジンは静かに回り続けていた。
車の後ろでは、積もった雪が、マフラーを完全にふさいでいた。
