兄は、毎年冬になると、私の家にマフラーを忘れていく。
帰り際、いつも玄関で言う。
「あ、忘れた。次来たとき取るわ」
兄は笑って、手ぶらで帰っていった。
年末の大掃除で、私は兄のために取っておいたマフラーを数えた。
八枚。八年間、一年に一枚ずつだ。
どれも新品で、値札がついたまま。一度も、巻かれていなかった。
私は兄に電話した。泣き笑いで言った。
「マフラー、取りに来て」
兄は少し黙って、それから言った。
「……おう。行くわ」
兄は、忘れていたんじゃない。
来るたびに、次に来る理由を、置いていったのだ。
