昼休みの終わりに教室へ戻ると、クラス全員が消えていた。
机には食べかけの弁当。鞄も、スマホも、そのままだ。
「メアリー・セレスト号みたい」
あずさがつぶやくと、颯太《そうた》が眉を上げた。
「無人で見つかった船だろ。食事も荷物も残して、乗員だけ消えた」
「卵焼き、まだ温かいよ」
「じゃあ、消えたのはついさっきだ」
「私、ずっと廊下にいた。誰も通ってない」
「俺も階段にいた。誰も降りてきてない」
「ここ三階だよ。窓から出たの?」
颯太が窓を開けて、下をのぞいた。
「いた」
グラウンドに、クラスの全員が整列していた。
「避難訓練か。放送、聞いたか?」
「鳴ってない。なんで私たちだけ、呼ばれなかったの?」
あずさは窓から手を振った。誰も振り返さない。
拡声器越しに、担任の声が届く。
「点呼、終わり。全員いるな」
「待って。私たち、ここにいる」
颯太が、小さく笑った。
「船は無人じゃなかったのかもな。見えなかっただけで」
下の列は静かに校舎へ歩き出した。
先生が名簿を閉じる。三十人。全員いる。
このクラスは、三十二人のはずだった。
