義母が毎晩、うちの玄関灯だけ点けに来る。
共働きで留守の夕暮れ、合鍵で入って、灯りだけ点けて帰っていく。
夫に言っても「放っておけ」と笑うだけだ。
見張られている気がして、私は鍵の交換を予約した。
交換の日、義母が玄関の前で待っていた。
「勝手に入ってごめんなさい。もう来ないから」
「どうして、灯りだけなんですか」
義母は靴を揃え、夫から聞いたと小さな声で言った。
「亡くなったお母さん、あなたが帰る夜は、いつも玄関の灯りを点けて待っててくれたんでしょう」
「私じゃ代わりになれないけど、真っ暗な家には帰らせたくなくて」
実家の灯りは、母の葬儀の夜に消えたきりだった。
私は交換の予約を取り消した。
その夜、帰ると、玄関に義母の灯りが点いていた。
「ただいま」と言うと、灯りが「おかえり」と言った気がした。
