最後の一本

ぼる

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海苔は炙る。ご飯は左三分の一。具は三種まで。巻いたら十秒で食べる。
晴彦《はるひこ》は掟を唱え、正座を直した。結婚の挨拶の夜、夕食は手巻き寿司だ。
父の竹雄《たけお》が、七種全部を載せた丸太並みの一本を巻いた。具が逃げている。
母の房江《ふさえ》はいくらの皿を自分の側へ引き寄せた。瑞希《みずき》は海苔さえ巻かず、酢飯に具を直接載せている。
誰も炙らない。
この人たちと家族にはなれない。晴彦は静かに麦茶を飲んだ。
そこへ房江が鍋を持ってきた。
「〆はアレよね」
蓋が開き、茶色いものが湯気を立てた。昨夜のカレーだった。
房江は海苔にご飯とカレーを載せ、器用に巻いた。
「さ、どうする」
竹雄が晴彦を見る。
「……福神漬けは、端に寄せてください」
思わず口をついた。三人が深く頷く。
「わかってるじゃない」

数年後、手嶋家の食卓。
「パパ、〆はアレ!」
娘の陽菜《ひな》が海苔を差し出した。晴彦は鍋の蓋を開けた。
「海苔は炙るぞ」

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