会議室の絵が消えた。額縁だけが、毎朝拭いたままの顔で壁に残っている。
「涼子《りょうこ》さん、盗難です!」
「落ち着いて。いつ気づいたの?」
「今朝です。昨日の夕方は、確かにありました」
「確かに?」
「はい。僕、毎朝あの絵を拭いてますから」
涼子はコーヒーを置いた。
「ルーヴルの名画が消えたときもね、盗まれたのは月曜だった」
「休館日ですよね」
「そう。だから翌日まで誰も気づかなかった。みんな、あると思って通り過ぎたの」
「じゃあ犯人は内部の人間ですか」
「ええ。いちばん堂々と持ち出せる人」
「誰ですか。警備ですか」
「あの絵は先週の月曜に、私が修復へ出したの。全社メールも送ったわ」
健太《けんた》の顔から血の気が引いた。
「でも僕、昨日も……微笑んでるのを見ました」
「ええ。だから聞きたいの」
涼子は壁の額縁を見た。
「この一週間、あなたは毎朝、誰に挨拶してたの?」
