母は毎晩、私の駅の終電を調べていた。一度も、そう言わないまま。
機種変更をしたいという母のために、実家で古いスマホのデータを移していた。
「いらないアプリは消しといて」
台所から母が言う。
「はいはい」
検索履歴を開くと、同じ言葉が毎晩、一行ずつ並んでいた。
「私の駅 終電 時刻」
去年の春から、一日も抜けていない。
その春、私は一人暮らしを始めた。
母は毎晩、日付が変わってから「おやすみ」とだけ送ってくる。うるさくて、私は「毎日やめて」と言った。
母は「ごめんね」と返した。それでも「おやすみ」は続いた。私が返したことは、一度もない。
「ねえ、これ、何で毎晩」
「あんたの駅、終電が遅いでしょう。ちょっと気になっただけ」
母は湯のみを置いて、笑った。それ以上は、何も言わなかった。
私は新しいスマホに、LINEを移した。
トーク画面の「おやすみ」は、全部、零時五十分に届いている。
私の駅に終電が着くのは、零時四十九分。
母は毎晩、私が帰れる最後の電車が着くまで、起きて待っていた。
