祖父のスマホは、あと一回間違えたら、全部消える。
画面には「次に間違えるとデータが消去されます」と出ている。九回、外した。
祖父と祖母の誕生日。命日。住所。ぜんぶ違った。
十歳の夏を思い出す。祖父に初めてスマホを買った日だ。
「忘れても迷子にならんように、お前の番号にしてくれ」
それだ。僕は自分の番号の下四桁を、指で押した。
開いた。
連絡先は、たった一件。「ゆうと」。
発信履歴も、ぜんぶ「ゆうと」。通話時間は、どれも〇秒。かけては、切っていたのだ。
いちばん上は、祖父が倒れた夜の発信だった。
僕の携帯には、あの夜の不在着信が残っている。仕事を理由に、僕は折り返さなかった。
僕の携帯から、祖父の番号にかけた。机の上で、祖父のスマホが鳴る。
出ない。それでも切らずに、最後まで聞く。
あと一回だけ、鳴ってほしい。
