金木犀の香る夜、隣のベランダから男の子が声をかけてきた。隣は、半年前から空室だ。
洗濯物を取り込んでいた私は、手を止めた。
「いい匂いだね」
手すりの向こうに、小さな影が見えた。
「うん。この香り、一週間くらいで終わるんだって」
「じゃあ、終わる前にまた話そうよ。約束」
「いいよ、約束」
そう答えてから、隣が空室だと思い出した。顔を上げると、影はもうなかった。
翌日から毎晩、ベランダに出た。隣の窓はずっと暗いままだった。
一週間がたち、香りが薄くなった夜。
隣の手すりに、橙色の小さな花がひとつ置いてあった。
私は自分の手すりの花を取り、身を乗り出して、その隣に並べた。
風に最後の香りが混じった。
「ありがとう。また来年」
そして私は、来年の
