ひいばあちゃんが亡くなったとき、私はまだ小さな子どもだった。
お通夜のあと、親族はみんな、葬儀場の上の階に泊まることになった。
じいさんもばあさんも、お酒を飲んで、ご飯を食べて、夜中にはもう寝ていた。
私はおしっこで何度も起きてしまうたちだった。その夜も、おしっこがしたくて目が覚めた。
暗い部屋のなかで、起きているのは私だけだった。
ここのトイレは、すごく遠い。
ひいばあちゃんの遺体の前を通って、お葬式のホールも通っていかなければならない。
怖い。でも、行かなかったらおもらしをしてしまう。おもらしをしたら、きっと怒られる。
そう思って、私はこっそり布団から出た。
遺体の前を通るとき、ホールを歩くとき、ずっと誰かに見られているような気がした。
下を向いたまま、早足でトイレまで行った。
トイレの近くの通路は、電気がついていた。明るいところにいると、少しだけほっとした。
でも、戻らなければいけない。
トイレから歩きだすと、通路を出たところから先は、すごく薄暗かった。
遺体があって、みんなが敷布団で寝ている部屋のほうも、ホールも、ぼんやりと暗い。
そのなかに、赤い火の玉が動いていた。
見間違いなんかじゃない。はっきりと、ゆらゆら動いていた。
怖いと思った。でも、戻らないわけにはいかなかった。
ママはいなくて、私ひとりだったから。
戻るしかなかった。
ホールには、家の形をした大きな祭壇があって、まわりに花がいっぱい飾ってあった。
その前に、火の玉がひとつ浮かんでいた。
「はあ?」と思った。声も出なかった。
それでも私は、みんなが寝ている、遺体のある部屋へ向かった。
部屋に入ると、そこにも火の玉があった。
ふわふわと浮かんでいて、私のほうへ近づいてくる。
私は急いで布団に入って、頭までかぶった。
あれから何年もたつけれど、あの赤い色は、今でも忘れない。
